資生堂 企業文化誌 「花椿」

2014年 1月号  WOMAN

武市知子
宝飾細工師マイスター

4歳よりピアノをはじめ、15歳でミュンヘンへ単身留学。高校卒業後、造形デザイン科で絵画を学びながら、数々のバンドに参加するもメジャーデビュー直前で解散。その後Goldschmied(宝飾細工)の修業をして公認職人資格を習得、2005年にバイエルン州初日本人宝飾細工師マイスターとなる。 同年ミュンヘンにterra auriをオープン。

  • Hair & Makeup/
    Reiko Ito (SHISEIDO)

成功者の人生は、力強い分だけシンプルである。迷いなくひとつの道を早々と極めてしまうから。でもこの人の歩んだ半生は、正直、常人には理解の及ばないもの。なぜ15歳で日本にいてはダメと思ったか?しかもなぜドイツへ?なぜクラシックの勉強をしながら宝飾細工師に?すべてが謎。唐突な才能の目覚めに忠実に生きてきた人なのだ。もちろん"自分探し"ばかりしている人が迷宮に陥りがちなのとはまったく違う。どんなことも中途半端では終わらせない。とことんやり、"本物"になる。その奇想天外な選択のことごとくを確実に形にしてから次に進むのだ。資格を求めて志した宝飾細工師のマイスター学校を首席で卒業し、バイエルン州より表彰もされたことにそれは明らか。しかしただ、表現者として多才なだけではない。良い意味で無秩序に広がっていく無限の能力をまとめるのは自然科学への深い造詣。この人を理解するにはやはりレオナルド・ダ・ヴィンチを持ち出すしかないのだ。その無限を形にする舞台として作った工房&ギャラリーも、この人自身も、数年先の姿はもう想像ができないほど。ドイツ語もできない留学に始まるルールのない生き方。何というスケールの大きさだろう。

文=齋藤薫