· 

ルーマニア記 13

ほとんどアッポテンポの曲が続く中で、バラードはいやでも目立つ。

 

しかもその曲はピアノのみの前奏ではじまって、かなりの間ピアノとヴォーカルの二人だけのパートが続く、私にとっては、ソロ以上に緊張するかなりの勝負曲だったりするわけである。

 

深呼吸をしてピアノを弾き始める。

 

屋外コンサ-トの会場に大音量で響き渡るピアノの音。

(ピアノの音もここまで大きいと、ゴジラ並みである)

 

ミスはゆるされない。しかも、テレビ生中継。

 

鍵盤を押す指にも知らず知らずのうちに力がはいる。

メランコリーなその曲をヴォーカルが歌いはじめた、そのとき、、、、

 

思いもしないことがおこった。

 

突然、ピアノの音が消えた、、、、、、

 

のである。

 

別に私がとちったわけではない。

鍵盤をおしているのに、音、が全然でていない。

 

もう私の頭の中は真っ白。(顔も顔面蒼白だったことだろう)

 

呆然と立ち尽くしていると、他のメンバーもびっくりしてこちらをみているのがわかる。

私自身、何がおこったかまったく把握出来ていなく、ショックで金縛りになっている後ろを、ローディーたちが走り回っている。

 

最悪の5秒、10秒、15秒、、、、

 

そして、金縛りから解け、意識がもどった20秒くらいに、また突然何事もなかったかのように、私のピアノは復活した。

(音がでていない間もずっと鍵盤をたたいていたわけだが、2万5千人の前で、音の出ていないピアノを弾いたのは世界中のなかで私くらいだろう、、、)

 

悪夢、というのはこういうことをいうのだろうか。

(夢だったらどんなによかったことか!)

 

なんと、この悲劇をひきおこしたのは、あのカメラマンだったらしいのだ。

なんでも、私の周りをチョロチョロしていた彼が調子にのって私をアップでうつしまくっているうちに、コードにひっかかって電源を引っこ抜いてしまったのだという。

 

あほ!

 

信じられないくらいにあほな出来事である。

 

私が、絶電されていた間は、かわいそうにヴォーカルは一人でアカペラで歌い続けなくてはいけないし、観客は突然ピアノが弾くのをやめたので驚くし、(やめたんじゃないんだよ、やめさせられたんだー。涙)すべてその様子は中継されてるし、とにかくすべてが最悪なのである。

 

しかし、そこは、ステージ上のアクシデント。

ミュージシャンたるもの、そんなことで落ち込んでいる訳にはいかない。

 

そう、show must go on なのだ。

 

その後はなにもなかったように、アップテンポの曲が続き、パフォーマンスが終わった。

 

しかし、カメラマンがコードにひっかかって電源が切れる、などという事はまさに前代未聞であり、(停電になった、とかいう話はきいたことはあるが)我々の間でもいまだに伝説として語り継がれている。

(というより、私をいじめる格好の材料となっている)

 

その後も、しばらく、

「コードにつまづくなよー」(だから、私がつまづいたわけでは、、、)

 

「音がでなくなったら電源いれろよー」(だから、コードが抜かれたんだって、、)

 

と、メンバーに言われ続けたことはいうまでもない。

にっくきカメラマン。(因みに彼からの謝罪はなかった)

 

障害賠償をもらいたいくらいだ。

私のこころの傷は深い、、、、。

 

つづく