· 

ルーマニア記 9

実は、記者会見の間中、靴のことが気になって仕方がなかった。

 

ステージ用のパンプスはヒールが高いだけに、常にはいているのは無理がある。

その上、靴ずれにもなりかけてきた。

 

靴、靴を買わなければ。

 

布地のスニーカーみたいなものを。安いのでかまわない。

 

自由時間中に専属の通訳さんに、靴を買いたい、というとブカレストの中心街までつれていってくれた。

 

途中、共産党本部のいやなほど立派な建物が建ち並ぶ中、まわりの生活水準とのギャップにあらためて驚いてしまう。

歩道は、ビニールシートのうえにものをおいて(海賊版のテープとか、ドイツ産の洗剤とか、とにかくなんでもおいてある)闇市状態だ。

 

我々はひとめで外人だとわかるのか、物乞いをするひとが後をたたない。

子供たちもゾロゾロたくさんついてくる。(我々ハメルンの笛吹きか!)

はじめに案内されたお店には、いかにも、爺婆、いや失礼、お年寄り専用の靴がならんでいた。

 

白い、皮の表面に換気の穴が無数にあいている健康靴を指差して、

「これなんて、どうかしら?」

と通訳さんがニコっとする。

 

えっ?この人本気でいっているのだろうか?

こんなダサい靴を私にはけ、と?

 

じょうだんじゃない。仮にも私はロックミュージシャンなのである。

 

「欲しい靴はこんなんじゃない。」

というと、彼女は困った顔。(ロックミュ-ジシャン、わがままでごめんなさい)

 

その次にいった店も同じような感じで、こんな靴、日本でもドイツでもみたこともない!という靴のオンパレードである。

 

私の反応をうかがうような顔で私をみている通訳さん。

 

あまりの品揃えに、もう何をいっていいかわからない私は、やっと、

「別に、皮靴でなくてもいいんだけど、、、、」といってみたが、(私がイメージしてるのは、『ごく普通』のスニーカーなんだが)

 

これには、気の毒なことに、彼女もしばらく考え込んでしまったのだった。

 

ついてきたメンバーも、

「いいからこれ買っちゃえよ。似合うよっ」

と、黄土色のつま先がオープンになっている靴を手にとって私におしつける。

 

なにが悲しくて、ロックをやっている人間が、こんなおばあさんのような靴をはかなければいけないのだろうか。

 

すると、

「あっ、いいお店をおもいだしたわ!」

と通訳の顔がパっとあかるくなった。

 

そして、新たな希望を胸に、また歩く、歩く。

もう靴ずれで、皮がむけて血もでている私の足、、、。

 

痛い!痛いぞ!

 

痛すぎて、もうどうでもいい気分になってきた。

「この次の店でどんな靴でも、買う!」

と宣言する私。

(黄土色でも、白の健康靴でも何でも来い!)

 

どうにでもなれ、と思ったときにお目当ての店がみえてきた。

「ここは中国人の店でなんでもあるし、安いの!」と通訳さん。

 

小さな店のなかは、フライパン、ストッキング、服といったものが所狭しとおいてある。みると、自転車まである。

天井からもありとあらゆるものがぶらさがっていて、前かがみにならなければならないほどだ。(ドンキも真っ青である)

 

なるほど、「なんでもある」という彼女の発言はあっていた。

 

そして、中国人の店主がニコニコしてもってきた靴は、、、、

 

皮に似せているつもりなのか、おそろしくゴワゴワしているプラスチック製。

色は、安いバッタもんのキティーちゃんのようなピンク。

 

しかも、ワンポイントで、傘のマークがもうしわけなさそうについている。

これはもう、ダサさを越えた存在である。

 

しかし、これを買わないともう一歩も歩けないほど、靴づれがひどくなっているし、このままでは、ステージにもたてない、という結論のもとに、私はそれを泣く泣く買った。

 

そして、履いた、、、。

 

その靴は、おそまつなつくりのくせに、存在感だけはものすごく、色がピンクであるということもあってか、まわりに、「これでもか!」とアピールしている。

 

メンバーも私を指さして、おなかをかけるようにして笑っている。

 

人々の視線がすべて私の靴にそそがれているような被害妄想におちいりながら歩いていると、思いもしないことがおこったのである。

 

さっきまで、うるさいほど我々に金をせびっていたルーマニア人がピタっと、だれも寄ってこなくなったのだ。

 

人は足もとをみる、ということわざがあるが、私はこの靴一足でルーマニア人から同胞としてうけいれられてしまった、ということだろうか。

 

ともかく、このおかげで、我々はだれにも邪魔されずに中心街を歩くことができたのであった。

 

つづく