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ツンフト(ギルト)と私

2015年9月24日

 

ドイツの社会構造と行動様式を理解する上で大切な要素に、「Zunft(ツンフト)」というものがある。

 

ツンフトは、英国では「ギルド」と呼ばれる、中世に出来た手工業のマイスターからなる職業別組合であるが、このギルドという名称なら耳にしたことがある方も多いのではないだろうか。

 

ヨーロッパでは、中世に入ると小さな村々が大きな都市へと発展しはじめ、政治的、社会的構造もそれにともない複雑になっていった。

 

地位と権力を確保するために、商人達は組合を結成、市政に大きな影響をもたらしていったが、それに対抗するように、手工業者たちも団結し商人とともに都市の成立と発展に貢献していくようになる。

 

いわゆる社会保障の基準がまだなかった中世で、手工業者達が生き残るには、職業ごとに団結し力をあわせるしかなかったのである。

 

マイスターと呼ばれる、その手工業の「親方」達は、職業ごとに「ツンフト」という組合をつくり、価格と品質の保証、職人の賃金の統一化などの、規則やガイドラインを確定していく。

 

職業別に手工業者達はそれぞれ街の一角に集合し、(各地に残る、肉屋通り、靴屋通り、などはその名残である)そこでは、手工業が営まれるだけではなく、徒弟の指導、教育、宗教的なお祭りや儀式なども行われた。小さな封建社会がそこに出来上がっていたのである

各職種の頂点であり、親方であるマイスターは、徒弟や職人を雇い、職業に必要な技術だけではなく、知識、教養、道徳観を教え、社会の一員になるべく人格形成しながら伝統を継承していく。

 

マイスターと死別した未亡人とその子供達はツンフトが援助し、病気の職人や、年老いた職人を介護する施設もあったようである。

 

徒弟、職人、マイスターという厳しいヒエラルヒーはあるが、「手工業」という職業を通じて結ばれた連帯感は大きい。まさに運命を共にする共同体であったのだろう。

 

近世になるにつれ、ツンフトは解体されてしまったが、ヨーロッパのなかでも遅くまで封建制が残っていたドイツでは、「マイスター制度」「デュアルシステム」そして、ツンフトを原型とする「Innung(イヌング)」という職業別の組合が存在し、その影響は根強い。

 

ドイツの「デュアルシステム」が、企業が将来的に自社で使える人材を育てる為の訓練システムではなく、伝統の継承、職種の継続に重点がおかれ、場合によっては、未来の自分の「ライバル」を育てることになるシステムである、ということ。

 

個人(企業)のメリットより、全体(手工業)を優先する、という点は、やはり、このツンフト(ギルド)の歴史をぬかしては理解出来ない。

これこそドイツ社会の行動様式の根本的な部分を形成するものであると思う。

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なぜ、今、ツンフト(ギルド)のことを書いたかというと、、、、、

実は、私が所属する、バイエルンGoldschmiedeinnung(金細工師組合)の役員選挙で理事に選ばれたからだ。

 

先日、グランドマスターと理事10名からなる理事会に初出席したのだが、ヨーロッパの伝統工芸を継承する組織の幹部に日本人である私が入り込む、ということは大変恐れ多いことであり、今更ながら責任の重さを噛み締めているところである、、、(まあ、そう感じているのは、当人の私だけ、らしい、が。)

 

20年前に、偶然あしを踏み入れることとなった、「金細工」という伝統工芸。

職業訓練を受けはじめた時には、まさか将来、イヌングの理事になるなんて夢にも思わなかったわけだけれど、、、、

 

たしかに、名ばかりであってないものに等しい組合もたくさんある、と聞く。

自分に直接メリットのないイヌングの活動に興味をしめさないマイスターが多いのも理解出来るし、ディアルシステムも数々の問題を抱え、マイスター制度の前途も多難。そんなご時世である。

 

ここまで意欲的にツンフトの意志を受け継いでいるイヌングなど、もしかしたらドイツ国内でももう残り少ない絶滅危惧種なのかもしれないが、、、

 

しかしながら、微力でも、この職種の伝統を継承するために全力をつくそう。

 

ビール片手に熱い議論を続ける、まさに「親方」という名称がぴったりくる先輩マイスター達に囲まれながら、心のなかでそう誓った。

 

おわり